家族信託のご質問を専門家が解説!「詐害信託とは何ですか?」

1.詐害信託とは、委託者が債権者を害することを知って信託をした場合のことをいう。

この詐害信託がなされた場合、債権者は、受託者を被告として、詐害行為取消請求をすることができる(信託法11条1項本文、民法424条3項)。

信託契約により信託を設定する際には、委託者は、当初信託財産となるべき財産を受託者に対して処分するのであるから、当該財産は委託者の責任財産から逸出し、委託者に対する債権者は、それに対して強制執行等ができなくなる(信託法23条1項)。

しかし、そうなると、委託者に対する債権者の利益が害されるおそれがある。

そこで、民法上の詐害行為取消権(民法424条以下)と同様に、信託法においても詐害信託について取消権が規定されているのである。

2.詐害信託による取消しの要件

ア 債権者側の要件

被保全債権が詐害行為前に発生している必要がある。

なお、この被保全債権は、特定物債権でも詐害行為取消権を有する。

特定物債権も究極において損害賠償債権に変わりうるのであって、債務者の一般財産によって担保されなければならない点で、金銭債権と同じだからである(最大判昭36・7・19民集15-7-1875)。

イ 債務者側の要件

(ア) 客観的要件

委託者兼受益者(自益信託の場合)が無資力(「債務超過状態」破産法16条1項参照)であることが必要である。この場合の無資力の判断においては、委託者が取得する受益権の価値を、信託設定のために処分された財産の価値から控除しなければならない(民法424条の2参照)。

そう解さないと、委託者がたんに預金類似の投資信託を行っただけで、詐害信託となりうることになり、妥当ではないからである。

(イ) 主観的要件

「委託者がその債権者を害することを知って」信託を設定したことが要求される。たとえば、障碍者である子のための信託などでは、主観的要件の充足が否定される。

ウ 受益者の要件

詐害信託の設定においては、受託者はその立場では利益を得るものではなく、取消権の成否の判断においては考慮されない(信託法11条本文)。利益帰属権者である受益者の主観的態様が考慮されるべきことになる。

3取消しの対象と被告

当初信託財産に属する財産を委託者の責任財産に復帰させるために必要なのは、処分行為の取消しのみである。

したがって、信託契約全体が取消しの対象となるのではなく、財産権変動部分のみが取消しの対象となると考えられる(ただし、争いあり)。

また、被告となるのは原則受託者である(例外:信託法11条4項、5項)。

4 取消しの効果

取消債権者の債権額が、詐害行為の目的である財産の価格に満たず、かつ、その財産が可分であるときは、被保全債権額の範囲でのみ取り消すことができる。

しかし、財産が不可分であるときは(不動産など)、詐害行為の全部を取り消すことができると考えられている。